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青森地方裁判所弘前支部 昭和50年(ワ)101号 判決 1984年11月01日

第一及び第五事件原告

川村正博

第一及び第五事件原告

徳海勝雄

第二及び第五事件原告

安田博

第三事件原告

福士博嗣

第四事件原告

坂田栄三

右五名訴訟代理人弁護士

二葉宏夫

第一ないし第五事件被告

紅屋商事株式会社

右代表者代表取締役

秦計機雄

右訴訟代理人弁護士

佐藤敏栄

主文

一  原告川村正博、同徳海勝雄、同安田博、同坂田栄三及び同福士博嗣が、被告に対し、いずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告川村正博に対し、昭和五〇年二月一日から毎月二八日限り一か月金七万円の割合による金員並びに金一〇万円及びこれに対する同五一年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  被告は、原告徳海勝雄に対し、昭和五〇年二月一日から毎月二八日限り一か月金五万九〇〇〇円の割合による金員並びに金一〇万円及びこれに対する同五一年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  被告は、原告安田博に対し、昭和五〇年五月一日から毎月二八日限り一か月金一〇万三六六六円の割合による金員並びに金三〇万円及びこれに対する同五一年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

五  被告は、原告福士博嗣に対し、昭和五一年四月一日から毎月二八日限り一か月金八万七五〇〇円の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告坂田栄三に対し、昭和五一年六月一日から毎月二八日限り一か月金九万二〇六三円の割合による金員を支払え。

七  原告川村正博、同徳海勝雄及び同安田博の昭和五一年(ワ)第一八七号事件(第五事件)についてのその余の請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用は全事件を通じてすべて被告の負担とする。

九  この判決は、主文二項ないし六項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 原告川村正博(以下原告川村という)、同徳海勝雄(以下原告徳海という)が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、昭和五〇年二月一日以降毎月二八日限り、原告川村に対し一か月金七万円、同徳海に対し一か月金五万九〇〇〇円の各割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告川村、同徳海の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は右原告らの負担とする。

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 原告安田博(以下原告安田という)が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は同原告に対し、昭和五〇年五月一日以降毎月二八日限り一か月金一〇万三六六六円の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告安田の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

(第三事件について)

一  請求の趣旨

1 原告福士博嗣(以下原告福士という)が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 主文五項と同旨

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告福士の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

(第四事件について)

一  請求の趣旨

1 原告坂田栄三(以下原告坂田という)が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 主文六項と同旨

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告坂田の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

(第五事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告川村、同徳海、同安田に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する昭和五一年九月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告川村、同徳海、同安田の右請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は右原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(第一、第二、第四事件について)

一  原告川村、同徳海、同安田、同坂田の主張

1  被告は、青森市新町に本店、弘前市土手町と青森市古川に支店を有する、衣料、食品、日用品等の小売を業とする株式会社である。

2(一)  原告川村、同徳海はいずれも昭和四八年に被告に雇用され、弘前店に勤務していた従業員であり、また昭和四九年一二月二一日に被告従業員によって結成された訴外紅屋労働組合(以下紅屋労組という)の執行委員である。

(二)  原告安田、同坂田はいずれも被告弘前店の従業員であり、右紅屋労組結成以来、原告安田は書記長、同坂田は執行委員長の地位にある。

3(一)  被告は、昭和五〇年一月三〇日、原告川村については「昭和四九年一一月一〇日訴外タック株式会社より着荷の品番一〇五一〇オーバーコート一着(原価一万六三九〇円、売価一万六八〇〇円)及び同年一二月二日訴外エドワーズ株式会社より着荷の品番A二〇一九スーツ一着(原価二万一七三〇円、売価二万二二三〇円)を正規の手続を経ず、売場より着用して持帰り、売掛伝票及び売掛台帳の記載を不可能にならしめた。」との理由で、原告徳海については「昭和四九年八月一〇日当宿直の夜、地下食品売場より販売用食品を無断で飲食した。また同年一一月一〇日前記タック株式会社より着荷のオーバーコート一着(原価一万六三九〇円、売価一万六八〇〇円)及び同エドワーズ株式会社より着荷のコート一着(原価一万一一〇〇円、売価一万一五〇〇円)を正規の手続を経ず、売場より着用して持帰り、売掛伝票及び売掛台帳の記載を不可能にならしめた。」との理由で、原告川村及び同徳海に対し、それぞれ懲戒解雇する旨の意思表示をした。《以下略》

4(一)  被告は、昭和五〇年四月一六日、原告安田に対し、「<1>昭和四九年一二月一二日訴外西村油脂工業所(以下単に西村油脂という)より受取った豚油脂代金七二〇〇円が被告に納金されていないこと、<2>昭和五〇年二月一八日訴外木村惣菜店より受取った精肉代金二九〇〇円、同月一九日同店より受取った精肉代金三〇〇〇円等が被告に納金されていないこと。」の理由で同原告を懲戒解雇する旨の意思表示をした。

しかし被告は右解雇に関しての青森県地方労働委員会(以下単に地労委という)に対する不当労働行為救済申立事件において、訴外木村惣菜店の代金二回分についてはその後の調査で入金が明らかになったとしてこの分についての解雇理由を撤回した。《以下略》

5(一)  被告は、昭和五一年五月一四日付で、原告坂田に対し、「原告坂田には同年四月一五日より二三日までの期間、連日にわたり紅屋労組員の千葉豊治、棟方義則、福士博嗣、安田博他外部数名の人数をもって、被告青森店々頭において、(イ)会社は売り上げ及び利益が低下している、(ロ)その為商品に高い利益率を掛けて、商品を高く売っている、(ハ)取引問屋の一流、二流どころは会社との商取引を打ち切った、(ニ)消費者は悪品高値の商品を買わされている、との虚偽の事実を内容とする風説を顧客並びに不特定多数の客、通行人に対して拡声器付自動車並びにハンドマイクを用いて大声で伝播し、さらにチラシを配布して虚偽の風説を流布した重大な責任がある。その行為により会社は信用毀損及び業務妨害され、痛烈なる打撃を受けた。このような行為は就業規則第二二条一五号及び第四六条一六号に抵触する違反行為であり、原告坂田を、信用毀損と営業妨害行為の最高責任者として懲戒解雇する。」旨の懲戒解雇の意思表示をした。《以下略》

(第三事件について)

一  原告福士の主張

1  原告福士は昭和四八年三月二二日被告に就職し、商品管理課等を経て、昭和五一年三月当時被告青森店経理事務係に勤務していた被告の従業員である。

また同原告は紅屋労組の組合員で、その書記次長の地位にある。

2  しかるに被告は昭和五一年三月二〇日をもって原告福士が退職したと主張し、同原告の就労を拒否している。《以下略》

(第五事件について)

一  原告川村、同徳海、同安田の主張

1  被告は昭和五〇年五月七日、一般日刊紙である陸奥新報紙上の九面(社会面)に縦三段(一〇センチメートル)、横半ページ(一八・七センチメートル)大の「お詫び」と題する広告を掲載した。

この広告は原告らが所属する紅屋労組が行ったストライキに関し、被告がお客様各位にお詫びするという体裁で掲載されている。ところが同広告は、わざわざ右ストライキでの労組の要求を記載し、そこで原告川村、同徳海、同安田を不正行為による懲戒解雇者とし、このような解雇者の解雇撤回等の不当な要求を掲げて労組はストライキをしたとしている。

右原告らが不正行為をしたとして懲戒解雇に処せられたことも、紅屋労組がその解雇撤回等を要求してストライキを行ったことも事実であるが、原告川村、同徳海については広告掲載日にはすでに青森地方裁判所弘前支部において解雇不当として身分保全の仮処分決定がなされており、原告安田については仮処分申請準備中で、いずれも被告の解雇処分を不当として争っていたものであり、右原告らには不正行為はなく、これを不正行為者と呼ぶことはできない。

このような状況下で、陸奥新報という津軽地方に数万の読者をもつ一般日刊紙上に、わざわざ「不正行為」による懲戒解雇者とし、しかも氏名まで明示して掲載することは、市民に労組の要求が不当であることを印象づけようとしたものであったとしても、右原告らにとっては不正行為による懲戒解雇者との烙印を押されたこととなり、精神的に甚大な苦痛を被った。

また被告は一般日刊紙上等に度々広告を掲載し、その効果を充分に知っている者であるから、本件広告が原告らの名誉をいかに毀損するものであるかも十分に知っていた筈である。従って被告は本件広告による右原告らの精神的苦痛に対する損害を賠償すべき義務がある。

2  右原告らはいずれも将来のある青年であり、新聞紙上に不正行為による懲戒解雇者と掲載されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ金五〇万円が相当である。

3  よって右原告らは被告に対し、各自損害金五〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五一年九月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。《以下略》

理由

第一第一、第二及び第四事件について

一  原告川村、同徳海、同安田及び同坂田の主張1項(被告の組織関係、但し被告が青森市古川に支店を有するとの点を除く)、同2項(一)(原告川村、同徳海の身分関係)、同3項(一)(原告川村、同徳海に対する解雇の事実及び理由)、同4項(一)(原告安田に対する第一次解雇の事実及び理由並びに解雇理由の一部撤回の事実)、同5項(一)(原告坂田に対する解雇の事実及び理由)の各事実及び原告安田、同坂田がいずれも被告弘前店の従業員であったこと、また紅屋労組において、原告安田が書記長、原告坂田が執行委員長の地位にあること、並びに同6項(二)(1)<7>(ロ)の<イ>ないし<ニ>及び<ト>、被告の主張2項(二)の冒頭、(1)、(2)、同項(三)の(1)、同項(四)の(1)(2)(原告安田に対する第一次解雇についての地労委の救済命令と地位保全等仮処分判決の言渡、同人に対する第二次、第三次解雇の事実及び理由と右各解雇についての地労委の救済命令、同人に対する第四次解雇の事実及び理由等)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  右原告らに対する各解雇について、被告は、いずれも就業規則違反を理由とする正当なものである旨主張し、他方原告らは、右主張を争うとともに、本件各解雇は不当労働行為若しくは解雇権の濫用であるから無効である旨主張する。そこで以下右双方の主張の当否について判断する。

(不当労働行為意思の存否について)

1 (証拠略)を総合すると、次の(一)ないし(九)の各事実が認められる。

(一) 被告の労務管理やその従業員の労働条件に不満を抱いていた原告安田ら被告弘前店の一部従業員は、安心して働ける職場の確立を標榜して労働組合を結成することを評議し、弘前店のその他の従業員にも呼びかけて、昭和四九年一二月二一日、弘前店の従業員約三五名で紅屋労組を結成した。右労組は、初代執行委員長に原告坂田を、初代書記長に原告安田を選任するとともに、上部団体としては弘前地方労働組合会議、青森県労働組合会議にそれぞれ加盟することとし、翌五〇年一月一二日、組合の結成を被告に通知し、被告に対し、組合員の労働条件の改善を求めるなど活発な組合活動を開始した。

(二) これに対し、被告代表者である秦計機雄社長は、同年一月一四日の弘前店での朝礼において、「組合ができるのはまだ早い。組合には良い組合と悪い組合があるが、組合があって会社がないようでは困る。」という趣旨の発言をするとともに、同日、紅屋労組に対し、勤務時間内はもちろんのこと、昼食休憩時間内においても店内での組合活動を許さない旨の意思を明らかにした。他方被告においては、右同日、青森店の従業員を主体として第二組合が結成され、その初代委員長には福士芳彦、初代書記長には成田為雄が選任されて活動を開始し、右同日から数日間にわたり、第二組合幹部ら数名がその上部団体である全繊同盟のオルグ数名とともに弘前店を訪れ、同店の営業時間の内外を問わずオルグ活動を実施した。この間被告代表者は、少なくとも二回にわたって同店役員室などで右オルグの者らと挨拶を交わし、第二組合のオルグ活動を十分に了知しうる立場にあったにもかかわらず、これを制約する等の措置を何ら講じなかった。こうして第二組合は、同月二一日には被告との間に労働協約を締結し、同月二三日には青森店全従業員を含む一七二名の組合員を擁するに至り、一方で被告と協調し、他方で紅屋労組と激しく対立するようになった。

(三) 紅屋労組は、同月三〇日、被告が組合を嫌悪し、その弱体化を図り、組織的に支配介入の不当労働行為を行っているとして、地労委に対し救済申立てをし、同年三月九日には午前八時三〇分から同九時一五分までの間、弘前店において出勤時間前の時間外集会を開いて原告川村、同徳海解雇問題や職場内の配転問題等について協議した。

(四)(1) ところで、被告代表者は、同年三月三日ころ、弘前店生鮮食品開発課長の職にあって、精肉部を担当していた堤陽二が、被告には腰痛のため入院すると称して休暇届を出しておきながら、実際には弘前市内のスーパーマーケットで働いているとの報告を受け、直ちに同人に来社を求めて事情聴取を行い、その際精肉部の仕入並びに販売状況を問い質したところ、豚油脂について西村油脂との間に継続的取引があることがわかり、翌日、被告会計課において、西村油脂との取引状況を調査した結果、右取引の存在は売掛台帳からは全く窺うことができず、従って豚油脂代金の入金も一切記載されていないことが判明した。

(2) 同じころ、被告は、同四九年一二月一二日付の西村油脂に対する金七二〇〇円の領収書控(<証拠略>)を精肉部において発見し、右金員もまた会計課へは入金されていないことを確認し、堤に対し、売上金横領の疑いを抱いてこれを調査することにした。同五〇年三月九日午前一〇時ころ、被告代表者は、西村油脂から精肉部との間に同四九年一一月二八日、一二月一二日、同月二六日、同五〇年一月二三日、二月一三日の各日付の五回の取引があるとの回答を得、また同年三月初めころ、原告安田が弘前店地下のテナント木村惣菜店へ肉を届けていたとの報告を受けていたことを思い出し、同店とも取引があり、ここでも堤に同様の疑いを持ち、会計課に取引の有無を問い合わせたところ、売掛台帳には同店との取引について何らの記載もなかった。そこで、被告代表者は、三月九日午後一時ころ、木村惣菜店に赴き、経営者の木村ワカに対し、精肉部との取引の有無を尋ね、取引ありと判明したので、これについての同店備付の伝票を借り受けて調査したところ、同四九年一二月から前同日までの間、同店との間に継続的取引があるのに、前述のとおり会計課の売掛台帳には何らの記載もなかったため、堤のみならず原告安田に対しても売上金横領の疑いを持つに至り、同日右両名に対する事情聴取を行うことにした。

(3) 被告代表者ら被告幹部数名は、同日午後五時四五分ころ、弘前店役員室において、原告安田に対して、木村惣菜店との取引内容、とりわけその入金状況についての事情聴取を行ったが、それまで被告において会計課の売掛台帳及び弘前店地下レジのレシート控について調査しても、右取引による入金の事実を発見できなかったこともあって、被告代表者は右事情聴取前から原告安田が売上金を横領しているとの心証を持っており、原告安田において、同店からの売上金はすべてレジを通して入金している旨弁明してもこれを受け付けず、「お前取ったんだろう。入金しているのなら全部調べてみろ。」と述べて、右地下レジのレシート控の束を原告安田に渡すなど、同人に対してもあからさまに横領したものと判断していることを示した。原告安田は、右レシート控の束を受け取って約一時間あまり調べて、同年二月二一日ないし二三日の分の売上金一万九〇〇〇円が入金となっている事実を探し出したが、被告代表者は、他の日の売上金は入金されていないと言って、その疑いを弱めようとはしなかった。その後原告安田と被告幹部との間で「今日はもう帰る」「調べ終わるまでは帰さない」といったことで一悶着あり、さらに被告代表者と原告安田との間で「警察に訴える」、「では今しろ」と口論となり、被告代表者は、その場で直ちに弘前警察署に電話して原告安田を横領の疑いで告訴する旨申し述べた。

他方、被告代表者は、堤に対しても同日午後六時一五分ころから、弘前店人事課において、原告安田と並行して事情聴取を行ったところ、同人は、前記被告において調査した五回の西村油脂との取引について同四九年一二月一二日分を除いた全部及び木村惣菜店との全取引並びにこれらの取引の売上金をすべて横領したことを認め、右一二月一二日の西村油脂との取引については同日は公休であったので、その売上金七二〇〇円も受領しておらず、原告安田において受領しているはずである旨述べた。

(4) 右事情聴取の結果、直ちに被告代表者は、原告安田に横領の事実があるものと認め、同人を会社にとどめておくことはできないと判断したものの、未だ解雇するには証拠が足りないと考え、その後も西村油脂や木村惣菜店との取引実態の調査を継続した。この間被告幹部の中からは原告安田を懲戒するのであれば、早くした方がよいとの意見も出されたが、既に同五〇年四月一二日の地労委の前記不当労働行為救済申立事件の第二回審問期日において、原告安田が証人として証言することが決められていたので、最終的に右証言前の解雇は適当でないとの結論に達し、解雇はしばらく見合わされることとなった。

(五) 原告安田は、右第二回審問期日において、紅屋労組申請の証人として、被告の支配介入行為について数々の具体的事例をあげて証言し、その中には前記認定の同年三月九日の同人に対する弘前店役員室における事情聴取の状況も含まれていた。

(六) 同年四月一五日に至り、被告の木村惣菜店への売上金の入金の有無の調査が終了し、同年二月一八日及び一九日分の売上金五九〇〇円を原告安田が集金しているのに被告に入金していないとの調査結果が出て、被告代表者は、漸く証拠も明白になったとして、原告安田を売上金横領の事由で解雇することを決定した。なお、被告代表者は、原告安田について、嘘をつく男であるから話をしても無駄であるとの認識を有していたため、右解雇決定までの間に、被告において、原告安田に対し、前記西村油脂への豚油脂売上金七二〇〇円の横領の件について釈明を求めることは一度もなかった。

(七) 四月一六日午後一時過ぎころ、原告安田は、弘前店役員室において、被告代表者から木村惣菜店への同年二月一八日及び一九日の売上金五九〇〇円並びに西村油脂への同四九年一二月一二日の売上金七二〇〇円の各横領の件についての釈明を求められたのに対し、いずれもレジを通すなどして被告に入金しているはずであるからさらに調査してもらいたい旨弁明した。被告代表者は、原告安田の右弁明は虚偽であり、かつ反省の態度も窺えないと判断し、同四月一六日午後四時ころ、前記各売上金横領を理由として懲戒解雇する旨同人に対して告知した(右解雇の理由及びその告知のあった点は当事者間に争いがない。)。

しかるに、後日の調査により、右木村惣菜店への売上金五九〇〇円は原告安田の弁明のとおりレジを通して被告に入金されていた事実が明らかとなり、西村油脂への売上金七二〇〇円の横領については、後記認定のとおり、これを認めることはできないもので、右解雇理由に該当する行為はいずれも認められないものであった。

(八) こうした中で、紅屋労組は、同五〇年三月一七日及び二二日の団体交渉の席上で被告に対し、従業員の配置転換の中止、原告川村、同徳海の解雇撤回等を求め、さらには同月二三日ストライキを決行し、続いて賃上げ要求、原告安田の第一次解雇撤回、組合に対する介入の中止などの要求を加えて、同年五月四日に第二波同月一八日に第三波のストライキを決行し、翌五一年四月一五日から同月二三日までの間には、原告らの各解雇及び被告の組合への介入行為に対する抗議並びにこれらの被告の行為の不当性を青森市民に訴えることを目的として、青森店々頭において、本件第一、第二チラシを配布するとともに、ハンドマイク等を使っての街頭宣伝活動を行うなど、被告と紅屋労組との対立は次第に深まって行った。

さらには被告側において、被告が、同五〇年三月の第一次解雇の後、原告安田を前記の第一次解雇理由の横領で、弘前店次長秦雅秀が、同五三年八月一日、原告安田を前記の第四次解雇理由の傷害で、被告が、同五四年三月ころ、原告安田、同坂田外二名を前記の原告坂田の解雇理由の威力業務妨害で、それぞれ告訴し、他方紅屋労組側において、副委員長の渡辺敬次が、同五一年三月一六日、被告代表者を傷害で、同五三年三月二四日、弘前店次長佐々木健之、同店経理課長林繁宏及び同店一階フロアー長成田為雄を監禁及び暴行でそれぞれ告訴し、ほかに被告側において、右佐々木健之ら三名が右告訴について右渡辺を誣告で告訴し、被告が、原告川村、同徳海を前記認定の同人らの解雇理由の横領でそれぞれ告訴しているなど、双方で七件の告訴事件が存在するという事態にまで及んだ。なお、右各告訴事件はいずれも不起訴処分に終わった。

(九) 約三五名の組合員で発足した紅屋労組は、前記同五〇年三月二三日の第一波ストライキ当時組合員数一三六名に達したが、その後被告や第二組合との対立、抗争を続けて行くうちに、同年夏ころには組合員数約八〇名に、同年冬ころには同約四〇名に、同五一年夏ころには同二一名に、と減少の一途をたどり、同五六年六月の時点では組合員数一二名にまで減少した。

(証拠略)中、右認定に反する部分は前掲各証拠並びに弁論の全趣旨に照らして措信しがたく、他に右認定を覆すに足るような証拠は存しない。

2 紅屋労組が、昭和五〇年度夏季賞与、同冬季賞与、同五一年度夏季賞与及び同五一年四月の昇給について、被告は、組合員への支給額、昇給額を低額にしたが、これはその人事考課を殊更に低く評価したためで、組合員に対する不当な差別取扱いであって、不当労働行為に当たるとして地労委に対し、各救済申立てをなし、地労委が、そのいずれについても紅屋労組の主張を認めて被告の行為を不当労働行為と判断し、その各救済命令を発令したこと、被告が、右昭和五〇年度の各賞与についての地労委の救済命令を不服として中労委に再審査の申立てをし、これがいずれも棄却されたこと、被告が、さらに右各賞与についての救済命令の取消訴訟を提起し、その第一審、第二審のいずれにおいてもその請求を棄却されたことはいずれも当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右地労委の各救済命令は、昭和五〇年度夏季賞与につき同五一年七月二四日に、同五〇年度冬季賞与につき同五一年一二月一八日に、同五一年度夏季賞与につき同五二年一〇月二〇日に、同五一年四月の昇給につき同五三年一〇月二八日にそれぞれ出されていること、右同五〇年度の各賞与についての中労委の再審査にかかる命令は同五二年一二月二一日に出されていることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

3 (証拠略)によれば、被告代表者は、紅屋労組発足のころから少なくとも昭和五一年ころまでは、同労組は「働かない、商品を売らない」ということを指導方針とし、会社の生産性向上を阻害し、会社を潰そうとしているものであると認識し、また個々の組合員については一般に日常の勤務において職場放棄が甚だしく、右労組の方針に従っているものと評価し、こうした組合員の勤務状況が人事考課に反映されて、紅屋労組員以外の従業員との間に賃金や賞与の支給額の格差が生ずるのは当然であるとの見解を有していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

4 以上の事実並びに前記一の事実を総合して判断するに、被告は紅屋労組をその結成当初から敵視していたものということができ、ことにその書記長である原告安田に対して、取り立てて理由もなく同原告を嘘をつく男であると決めつけ、同原告の弁明に耳を傾けようともせずに、十分な裏付調査も実施しないうちから同原告に売上金横領の事実があるものと即断して、先ず解雇すべき旨の結論を出し、その後に理由づけのための資料を集めたといっても過言ではないやり方で第一次解雇に及び、さらにその後も地労委の救済命令が発せられる都度、異常とさえいえる執拗さで同原告に対し第二次ないし第四次解雇を重ねたばかりか、緊急命令にも従わずに過料にまで処せられたこと、そして原告ら紅屋労組の中心的人物を解雇したうえ、賞与や昇給でその組合員を差別したこと、さらにまた被告から先ず原告安田の告訴に及ぶなどして、紅屋労組との間に極めて厳しい対立関係を作り出し、こうした状況の中で同労組の組合員数がわずか一年数か月の間に最多時の六分の一以下に激減したことなどからすると、被告は紅屋労組を嫌悪して、その中心的人物を解雇し、組合員を不利益に処遇することによって、その弱体化を図ったものであることは明らかである。

そして各原告に対する本件各解雇についてみても、原告安田に対する第一次解雇は、その経緯に照らせば、書記長として組合活動の中心的存在であった同原告を排除しようとの意図でなされたものと認められ、第二次ないし第四次解雇は、第四三回口頭弁論期日における予備的解雇の意思表示(昭和五一年四月一五日から同月二三日までの間のチラシ配布を理由とする解雇)をも含めて、いずれも当初に決定した解雇の方針を是が非でも貫こうとする被告、とりわけその代表者の一貫した姿勢を如実に示すものというべく、従っていずれの解雇においても被告において前記の如き意図を有していたものと認めることができる。

また原告坂田についても、右に述べた事情並びに同原告の解雇理由が前述の原告安田に対する予備的解雇の理由と同一であること等を総合すれば、被告は原告坂田の解雇の際にも原告安田の場合と同じく、紅屋労組の執行委員長として組合活動の中心をなしている原告坂田を排除して組合の弱体化を図ろうとする意図を有していたものと認めることができ、さらに紅屋労組の執行委員の地位にあった原告川村及び同徳海についても、組合結成通知を受けた直後の時期になされた各解雇並びに本件第八回口頭弁論期日(カッターシャツの窃取を理由とするもの)及び第四三回口頭弁論期日(前述の原告安田に対する解雇と同様のチラシ配布を理由とするもの)における各予備的解雇のいずれの際にも、被告においては前同様の意図を有していたものと認めることができる。

(解雇理由の存否について)

原告らに対する本件各解雇に際して、被告が右認定のとおりの不当労働行為意思を有していたとしても、被告は、原告らに対する各解雇にはいずれも正当な解雇理由があり、これを主たる理由として解雇した旨主張するので、進んで原告ら各自について、被告主張の解雇理由の存否を検討する。

1 原告安田の解雇について

(一) 第一次解雇について

(1) 原告安田に対する第一次解雇の事実及び理由並びにその後被告が、右解雇理由のうち、訴外木村惣菜店への精肉売上代金五九〇〇円の横領について、右事実はなかったとして撤回したことはいずれも先に判示したとおりである。

(2) (証拠略)を総合すると、次の<1>ないし<4>の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

<1> 昭和四九年九月二八日、被告弘前店に精肉部が開店したが、同部の責任者となった生鮮食品開発課長の堤陽二は、右開店当初生肉をスライスするときに出る豚油脂につき、被告から別段の指示もなく、かつ豚油脂の売却方も思いつかなかったので、これをゴミとして廃棄処分にしていたところ、開店後二週間位して取引先から豚油脂の売却先として西村油脂を紹介され、自己の一存で豚油脂を西村油脂に売却することとした。そのころ生肉をスライスするのは堤と原告安田の担当であり、右両名は、その際生ずる豚油脂をカゴに入れて冷蔵庫内に蓄えることとしたが、二週間もすれば相当量の豚油脂が蓄えられる状態であった。

<2> そこで西村油脂は二週間に一回位の割合で精肉部へ豚油脂を買いに来ることとなったが、堤は、同五〇年二月中旬ころ退職するまでの間、同四九年一二月一二日の取引分を除いてその他の取引はすべてその都度豚油脂の売渡、その代金の受領等の一切を自己が行い、受け取った代金の殆どを被告に入金せず、同年一〇月一〇日に売却した豚油脂代金四〇八〇円を翌一一日青和銀行弘前支店に自己の名義で普通預金にしたほかは、精肉部の机の引出しの中に入れて自ら保管していた。右普通預金の預入手続は、堤の依頼により、精肉部の従業員である佐伯和子が外一名の女子従業員と共に右支店に赴いて行った。

<3> 原告安田は、同月一六日、堤に昼食代の借用を申し入れたところ、同人から右<2>記載の普通預金の通帳と同人の印鑑とを渡されたので、右預金から金二〇〇〇円を引き出した。

<4> 原告安田は、同年一二月一二日、西村油脂に豚油脂を売却し、その代金として金七二〇〇円を受け取ったが、右金員はその後被告に入金されなかった。

(3) (証拠略)の各堤証人の供述記載中並に証人堤陽二の証言中には、堤は、前記豚油脂代金四〇八〇円を預金した当時、右金員が豚油脂代金であることや今後豚油脂代金を精肉部の従業員の茶菓子代にあてる旨右従業員全員に話しており、豚油脂代金は精肉部の従業員のために使う目的で蓄えていたお金であったとの各供述記載及び証言があり、(証拠略)の記載中にもこれに沿う部分がある。しかしながら(証拠略)の堤証人の他の供述記載部分によれば、堤は、西村油脂から受領した豚油脂代金のうち、前記四〇八〇円の預金からは一五〇〇円を引き出し、また現金のまま精肉部の机の引出しの中に入れて管理していた分からも四〇〇〇円ないし五〇〇〇円を費消しているが、これらはいずれ堤個人のための費消であるのに、精肉部の従業員にその了承を求めたことはなく、すべて同人の一存で自由に費消していたことが認められ、右事実及び原告安田本人尋問の結果(第一回)に照らして、右各証拠の供述記載、証言等の部分を措信することはできない。そして、右各証拠の外には、原告安田が、同年一〇月一六日、前記四〇八〇円の預金から二〇〇〇円を引き出した当時、右預金が豚油脂代金を預金したものであるとの認識があったものと認めるに足りる証拠はない。

(4) 次に(証拠略)によれば、原告安田は、同年一二月一一日、堤から翌一二日は同人が公休なので、西村油脂が来たら豚油脂を売って代金を受け取り、領収証を書くように指示され、翌一二日、その指示通りに精肉部の冷蔵庫の中のカゴに集めて置いてあった豚油脂約二四〇キログラムを西村油脂に売却し、その代金七二〇〇円を受け取り、領収証を他の従業員らもいる精肉部の机の上で書き、その控及び代金七二〇〇円を堤の管理するその机の引出しの中に入れたことが認められる。

この点につき、(証拠略)の各堤証人の供述記載中には、堤において、右豚油脂代金七二〇〇円を受領したことはなく、またこの件について原告安田から何らかの報告を受けたこともなく、従って取引のあった事実さえ知らなかった旨の供述記載部分があり、(証拠略)にもこれに沿う部分がある。しかしながら、(証拠略)の堤証人の他の供述記載部分によれば、堤は、同年一二月当時、毎日三〇回位は精肉部の冷蔵庫に出入りしていたことが認められ、右事実並びに先に認定した豚油脂の売却は同年一二月一二日の取引分を除いてすべて堤がなしていたこと、豚油脂は堤自身においても冷蔵庫内のカゴに入れて蓄えていたものであって、二週間もすると相当量に達するもので、右同日の取引量も二四〇キログラム位の大量のものであったという事実からすると、堤は、右二四〇キログラムもの豚油脂がなくなっていることを容易に発見できたものと推認されるものであって、これに前認定の豚油脂代金を堤が自己のために自由に費消していたという事実を併せ考えると、前記各証拠中の堤証人の供述記載の部分をたやすく措信することはできず、また右堤証人の供述記載部分が真実であることを前提とする(証拠略)も同様に措信することができない。

(5) 以上の事実によれば、原告安田が豚油脂代金七二〇〇円を横領したとはいえず、また前記堤名義の四〇八〇円の預金も原告安田においてなしたものではなく、同年一〇月一六日同原告が右預金から二〇〇〇円を引き出した当時においても、右預金が豚油脂代金を預金したものであるとの認識があったと認めることもできないのであって、右預金引出し行為を以て横領行為であるということもまたできない。他に被告主張の解雇事由の存在を認めるに足りる証拠はない。

(二) 第二次解雇について

(1) 原告安田に対する第二次解雇の事実及び理由についてはいずれも先に判示したとおりである。

(2) (証拠略)には、原告安田が、木村惣菜店に販売した精肉代金の集金分から、三回にわたり合計金一一〇〇円を横領した旨の被告の主張に沿う部分があるが、右各部分は(証拠略)に照らして措信することができず、却って(証拠略)を総合すれば、被告弘前店精肉部の責任者であった堤は、惣菜用ということで、木村惣菜店へは売れ残って商品価値の低下した肉の殆どを、仕入原価若しくはそれを少し割る価格で販売していたところ、同五〇年二月一三日ころ、被告を退職するにあたっての事務引継ぎの際、原告安田に対し、木村惣菜店への右販売方法や代金の端数は値引きしていることなどを申し送り、原告安田は、右申し送りに従って木村惣菜店へ肉を販売し、その代金につき一日毎の売上額の端数を値引し、さらに数日分をまとめて集金する際にその合計額の端数を再度値引きして、結局同年二月一五、一六日分の売上額小計一万〇三九〇円を一万円に、同月二一日ないし二三日分の売上額小計一万九七三六円を一万九〇〇〇円に、同月二四日ないし二六日分の売上額小計一万四三五四円を一万四〇〇〇円にそれぞれ値引きして売上金を集金し、右値引額の合計は一四八〇円になり、被告主張の原告安田が横領したという金額一一〇〇円は右値引分の一部に相当することが認められる。(証拠略)の右認定に反する部分は措信することができず、他に被告主張の原告安田の右一一〇〇円の売上金の横領行為を認めるに足りる証拠はない。

右認定事実及び前記(一)において認定判断したとおり第一次解雇の解雇理由が認められないことからすると、原告安田に対する第二次解雇もまた理由がないことに帰する。

(三) 第三次解雇について

(1) 原告安田に対する第三次解雇の事実及び理由についてはいずれも先に判示したとおりである。

(2) (証拠略)によれば、原告安田は、被告弘前店地下のテナントである食堂ペニーに対し、昭和五〇年二月二三日から同年四月九日までの間に、一キログラム当り金九〇〇円の単価で豚もも肉のブロックを二〇七・六キログラム、代金にして合計一八万六八四〇円分を、同年四月一二日から一四日までの間に、同じく金一〇〇〇円の単価で一五・二キログラム、代金にして合計一万五二〇〇円分をそれぞれ販売したが、右単価九〇〇円の販売価格はすべて仕入れ原価を割り、単価一〇〇〇円の販売価格でもほぼ仕入れ原価で、被告には殆ど利益がないものであったこと、原告安田は、右事実を認識しておりながら、被告の許可を求めることなく、右価格での販売をしていたこと、被告弘前店における同年二月一二日から同年四月一一日までの間の豚もも肉の仕入れ価格は一キログラム当り九二〇円から一〇〇五円の範囲内にあって、その平均仕入れ単価は一キログラム当り九六八円であること、右期間の弘前店における豚もも肉の平均予定販売価格は一キログラム当り一二四九円であったから、原告安田の前記原価割れ等の販売により被告は約七万六〇〇〇円の収益を失い、これと同額の損害を受けたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、原告安田は、原価割れ販売により被告に損害を与えることが明白であるのに、敢てこれをなしたものと認められる。

しかしながら(証拠略)によれば、前記食堂ペニーは、従来同じく被告弘前店のテナントである佐藤精肉店の取引先であったのを、弘前店の精肉部開店に当って、堤が値引攻勢をかけて精肉部の顧客にしたものであること、堤は、同五〇年二月一三日ころ被告を退職するにあたり、原告安田に対して精肉部の事務引継を行った際、食堂ペニーに対する豚もも肉ブロックの販売価格は一キログラム当り九〇〇円の単価である旨申し送ったこと、原告安田は、右事務引継当時から右販売単価が安いと思ったが、食堂ペニーを顧客にした前記経緯を知っていたので、自分の代になって直ぐに値上げもできないと考えて、堤の指示した一キログラム当り九〇〇円の単価で販売していたものの、その後食堂ペニーと交渉して同年四月一二日からは単価を一〇〇〇円に引上げ、さらに値上げを交渉したが、食堂ペニー側からそれ以上であれば、佐藤精肉店の方が安いと言われて値上げ交渉を中断するに至ったことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。また(証拠略)によれば、被告弘前店における同年二月一二日及び一四日の豚もも肉の平均仕入れ単価は一キログラム当り九七四円であることが認められ、これによれば、前記事務引継の際、堤が原告安田に対して申し送った豚もも肉一キログラム当り九〇〇円の販売単価はその申し送り時点において既に原価割れであったことが明らかである。

そして右認定したところの、原告安田が食堂ペニーに前記原価割れ販売をするに至った経緯、その動機並びに原告安田が値上げの努力も重ねていたことからすると、右原価割れ販売行為の責めをひとり同原告に帰するのは相当でないばかりか、同原告の右行為を以て雇用関係を維持し難いほどの著しい背信行為であるということはできないものと解されるのである。

(3) 以上の認定事実及び前記(一)(二)において認定判断したとおり第一次、第二次解雇の解雇理由がいずれも認められないことからすると、原告安田に対する第三次解雇もまた理由がないことに帰する。

(四) 第四次解雇について

(1) 原告安田に対する第四次解雇の事実及び理由についてはいずれも前示のとおりである。

(2) (証拠略)には、原告安田が、秦雅秀に対し、解雇理由となった暴行を加えた旨の各記載があり、被告代表者本人尋問の結果(第三回)中にもこれに沿う部分があるが、右乙第八九ないし第九二号証中の各証人の供述記載中には、原告安田は左肩ないし左肘を秦雅秀にぶつけたとあって「左」という供述で一致しているのに対し、いずれも右暴行のあったとされる日の二日後である同五三年三月一九日に作成された右乙第八一ないし第八四号証の右各証人らの報告時には、原告安田は、右肩を秦雅秀にぶつけたと一致して記載してあり、これらの点から右乙第八九ないし第九二号証中の各証人の供述記載及び右乙第八一ないし第八四号証の報告書の記載の右各部分には作為の疑いがあり、また後記乙第九二号証中の安田証人の供述記載から認められる事実に照らしても、右各証拠はいずれも措信することができない。

(3) また弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七五号証の診断書には、同五三年三月二〇日付で「病名右第五肋骨々折の疑い、右疾病のため向後二週間の安静加療を要す」旨の記載があり、前掲乙第八九号証中の秦雅秀証人の供述記載(前記措信しない部分を除く)によれば、秦雅秀は、右診断書の日付の三月二〇日に病院で診察を受け、その後同月二四日までの間、一日置きに通院し、合計三回通院したこと、同人が同月二〇日に病院に行った際には三八度位の熱があったことがそれぞれ認められる。しかしながら、前掲乙第九二号証中の安田証人の供述記載部分によれば、原告安田は、同五三年三月一七日午後六時一五分ころ、被告弘前店地下の精肉売場において、同店次長でフロア長でもあった秦雅秀から、切りハムの販売についての業務指示を受けた後、その仕事振りにつき「君は会社に遊びに来ているのか」、「君の仕事振りでは給料は出せない、もっと一生懸命働け」などと言われて、侮辱されたと憤慨し、帰りかけた同人を「おい一寸待て」と大きな声で呼び止めるとともに、腕組みをした姿勢で追いかけたところ、振り返った同人の左肩付近と原告安田の右肩が偶然ぶつかったこと、その後原告安田と同人は互いに「謝れ」などと相当激しく口論し、原告安田は、その間腕組みをし、右肩を前にして半身に構えた姿勢で同人に詰め寄ったりしたものの、同人に体当りを加えたり、肘や肩をぶつけたりするなどの暴行を加えたことはないことがそれぞれ認められ、また前掲乙第八九号証中の秦雅秀証人の供述記載(前記措信しない部分を除く)によれば、秦雅秀が、右暴行による痛みを訴えて病院に行ったのは前認定の三月二〇日が始めてであって、同人は、同月一八日、一九日の両日平常通りに勤務していること、同月二〇日病院でレントゲン写真を撮り、その結果肋骨々折はない旨診断されたことがそれぞれ認められる。

右事実からすると、前掲乙第七五号証の診断書は、秦雅秀の主訴に基づいて作成されたものではないかとの疑いも否定できないものであって、結局のところ、前記認定の診断書の存在及び発熱の事実から直ちにこれが胸部の打撲によるもので、被告主張の原告安田の暴行があったものと推認することはできないものといわなければならない。

(4) 他に原告安田が秦雅秀に対し、被告主張の日時場所においてその主張の暴行を加えたことを認めるに足りる証拠はなく、してみると、原告安田に対する第四次解雇もまた理由がないものといわなければならない。

2 原告川村及び同徳海の解雇について

(一) 原告川村及び同徳海に対する同五〇年一月三〇日付の解雇の事実及び理由はいずれも前記のとおり当事者間に争いがなく、また被告が、「右原告両名が共謀して同四九年一二月二七日に小売値二八〇〇円のカッターシャツ二枚を被告から窃取した」ことを理由に同五一年八月二五日の本件第八回口頭弁論期日において、右原告両名を解雇する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかである。

(二)(1) (証拠略)を総合すれば、次の<1>ないし<7>の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

<1> 原告徳海は、昭和四九年一一月ころ、被告弘前店衣料第六課の仕入担当係の地位にあったことから、被告の取引先であるタック社に対し、自己のためにオーバーコートを、原告川村に依頼されて同人のためにオーバーコートを、同じくエドワーズ社に対し、自己のためにコートを、原告川村のためにスーツをそれぞれ注文した。

<2> 右注文品のオーバーコートは同月一〇日に、コートは同月一五日に、スーツは同年一二月二日にそれぞれ被告管理課に納品された。

<3> ところで、被告には社員買物手続の定めがあり、被告従業員が被告の商品を購入する際は右手続によることとなっており、昭和四九年一一月当時の右手続の概要は次のとおりであった。即ち、(ア)売場商品に限る、(イ)価格は売場価格の一割引とする、(ウ)購入は各階売場の勘定場又は一階社員買物カウンターに商品を持参して申込む、(エ)右申込後、社員買物係において、四枚複写の社員売掛伝票を作成し、一枚を控として保管し、一枚を経理係へ、一枚を商品管理課統計係へそれぞれ送付し、残りの一枚を包装した商品に貼付してこれを保安係に配送する、(オ)社員は、退社時に保安係の検品を受けた上、購入した商品を持ち帰る、(カ)代金の支払方法は現金払と三か月分割払の二種に限定され、いずれも経理係において、社員売掛伝票をもとに社員売掛台帳に記帳し、これに基づいて購入した社員の毎月の給与から代金額を控除する、という内容である。

<4> 原告川村及び同徳海は、昭和四九年一一月当時右社員買物手続については十分な知識を有していた。

<5> 被告には他に仕入担当者がその取引先から特に廉価で商品を購入できるという手続は存しないばかりか、昭和四九年二月一八日付でかかる社員の地位を利用しての取引先との個人取引は厳禁する旨の社長通達が出ており、右通達はそのころ朝礼等を通じて被告の全社員に通知されていた。

<6> しかるに、原告川村と同徳海は、同徳海が紳士衣料品の仕入担当者の地位にあったことを利用して、前認定のとおり、自分たちの着用するオーバーコート等をタック社外一社に注文し、その納品後、原告徳海において、仕入担当者の資格で商品管理課から売場に右オーバーコート等をそれぞれ運び込み、原告川村及び同徳海それぞれにおいて、前記注文にかかるオーバーコート等について、いずれも前記認定の所定の社員買物手続を全く履践することなく、従って保安係の検品も受けないでそのまま持ち帰った。

<7> このため原告川村及び同徳海の右オーバーコート等の購入は被告の社員売掛台帳には記載されず、従って、被告において、右両名の毎月の給与から控除して代金の回収を図ることもできないまま推移し、被告が同人らの商品購入を覚知したのは同五〇年一月ころであった。

(2) 右事実によれば、原告川村及び同徳海の前記オーバーコート等の購入行為は、右認定の社員買物手続並びに取引先との個人取引を禁止する社長通達に違反するものであることは明らかであって、しかも右手続並びに通達は従業員による不正行為防止のために必要とされていた重要な手続等であるものと考えられるから、右原告川村及び同徳海の行為については、商品不正取得との疑いをもたれてもやむをえないものということができる。

(3) そこで原告川村及び同徳海に本件オーバーコート等の商品についての横領意思が存したか否かの点について判断するに、(証拠略)を総合すると、次の<1>ないし<3>の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

<1> 原告川村及び同徳海は、タック社外一社に本件オーバーコート等を注文するに際し、自分たちが着用する品物であることを明示し、同社外一社からの被告宛の納品書にもすべて原告川村、同徳海着用分と明記され、また右商品納品時の検収の際、被告管理課の担当者においてもこのことを十分認識して検収の手続をした。

<2> さらに原告徳海は、エドワーズ社のコートの検収時に、被告商品管理課員の中村恵智子(現姓高杉)に対し、右商品は一二月仕入れにして一〇回の分割払にするのでその旨伝票に記載してほしい旨依頼し、同女において、エドワーズ社の納品書(<証拠略>)の摘要欄にその旨記入した。

<3> 原告川村及び同徳海が、本件オーバーコート等の商品を被告商品管理課からその検収後に自己の売場に持ち出したのはいずれも商品管理課員の現認している中でのことであったが、当時同課員においてこれを不審に思ったものはいなかった。

右事実によれば、原告川村及び同徳海は、本件オーバーコート等の注文を被告に対し秘密裡になしたものではなく、公然とこれをなしたものと認められ、これに他に原告川村及び同徳海において、右商品の購入を被告に対し隠蔽するための工作を施した形跡を窺わせるに足りる証拠もないことを併せて考えると、原告川村及び同徳海には本件オーバーコート等の横領意思は認められず、ただ被告の仕入担当者としての地位を利用してその取引先から廉価に商品を購入しようとして、前認定の社長通達に違反し、かつ同社員買物手続の履践を怠り、結果として、被告の売掛代金の回収を一時的に不能ならしめたにとどまるものといわなければならない。

(4) このように、原告川村及び同徳海には本件オーバーコート等の代金の支払を免れる意思は認められないのであるから、右原告らの前記手続並びに通達違反の行為が先に述べたとおり重大な違反行為の一つではあるとしても、未だ原告両名に雇用契約を到底維持することができない程の著しい背信行為があるものということはできず、これを理由に懲戒解雇という最も重い処分をなすことは余りにも苛酷に失し、懲戒権行使の裁量の範囲を逸脱したものというべきである。なお原告徳海については、(証拠略)によれば、同原告は、同四九年八月一〇日ころの宿直の際、被告弘前店地下食品売場の販売用食品(カップヌードル)を無断で食べたという事実が認められるが、同時に同原告は自ら被告にその事実を申告して始末書を提出したこと、当時他の多数の従業員も同様のことをしていたこともまた認められるのであって、右事実を前記買物手続等違反に加えて考えてみても、前記判断を左右するものではない。

(三)(1) (人証略)を総合すれば、同四九年一二月二七日ころ、被告商品管理課に大光フライト社のカッターシャツが納品された際、原告川村は、その仕入担当者として商品検収手続に立会い、これに原告徳海も同行し、その折り、原告両名は、自分たちの着用する分として右納品された商品の中から各自カッターシャツ一枚をそれぞれの売場に持ち込んだこと、その後右原告両名において、右商品につき、前記認定の社員買物手続を履践した形跡のないことが、それぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、右原告両名の行為もまた商品不正取得との疑惑を生む行為であるものというほかない。

(2) ところで被告は右原告らの行為をもって、カッターシャツ二枚を窃取したものであると主張するのであるが、本件全証拠からは未だそこまでの認定はできず、他方原告川村、同徳海の両名は、その各本人尋問(いずれも第一回)において、同人らは前記カッターシャツを各自購入しようとして、一旦管理課から持ち出したが、結局のところ両名とも気に入らなかったので、二日後には返還することとし、原告川村においてそれぞれの商品に値札を付けて自己の売場に展示した旨の供述をなしており、右各供述が直ちに措信できないものとも断じ得ないのである。

そして右のように、本件カッターシャツについての原告川村及び同徳海の購入意思並びにその後の返還の事実が存在する可能性がある以上、前記(1)の認定事実から直ちに同人らの窃盗行為を推認することもまたできないものといわなければならない。

(3) してみると、原告川村及び同徳海のカッターシャツの窃盗を理由とする解雇は、その事実が認めがたく、また右商品持ち出し行為を社員買物手続違反としてとらえてみても、先に述べたオーバーコート等の手続違反の場合と同様の理由で、これをもって同人らに雇用契約を維持し難いほどの著しい背信行為があるものということはできないのである。

3 原告坂田に対する解雇並びに同安田、同川村及び同徳海に対する本件第一チラシ作成配布による信用毀損等を理由とする予備的解雇について

(一) 原告坂田に対する昭和五一年五月一四日付の解雇の事実及び理由はいずれも先に判示したとおり、当事者間に争いがなく、また被告が、右原告坂田に対する解雇理由と同一のことを理由に同五八年三月八日の本件第四三回口頭弁論期日において、原告安田、同川村及び同徳海を解雇する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかである。

(二) 紅屋労組が、同五一年四月一五日から同月二三日までの期間、連日にわたり、書記長である原告安田外数名の組合員らを以て、被告青森店々頭において、本件第一及び第二チラシを通行人らに配布したこと、本件第一チラシには、「<1>会社は売上げ及び利益が低下している。<2>そのため商品に高い利益率を掛けて商品を高く売っている。<3>取引問屋の一流二流どころは会社との商取引を打ち切った。<4>消費者は悪品高値の商品を買わされている。」旨の記載があり、本件第二チラシにはこうした記載はなかったことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、本件第一チラシの右<1>ないし<4>の記載が虚偽であるかについてみるに、(証拠略)によれば、本件第一チラシ配布当時の被告について、次の(1)ないし(4)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 被告の純利益は低下傾向にあったものの、売上げは比較的順調に延びていたこと。

(2) 被告は、一般に通常の小売店よりも安い価格で商品を販売しており、各商品についての利益率も高いということはなかったこと。

(3) 後記認定のとおり、本件第一チラシ配布後に二箇所の取引先との取引が停止になっているものの、右チラシ配布当時に取引停止となった事例はないこと。

(4) 消費者が被告から悪品高値の商品を購入したことを窺うような形跡は全くないこと。

してみると、本件第一チラシの前記<1>ないし<4>の記載は、<1>のうち、利益率の低下という部分においてのみ真実を含むものの、その余はいずれも虚偽の事実を記載したものと認められる。

なお、被告は、紅屋労組員らが、本件第一チラシを配布したときに、宣伝カーの拡声器またはハンドマイクを使って、右チラシの<1>ないし<4>の記載部分を読み上げていた旨主張し、(人証略)にはこれに沿う部分があるが、右証言は原告安田本人尋問の結果(第一回)に照らして措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三) 次に本件第一チラシの作成配布の経緯についてみるに、原告安田(第一回)及び同坂田各本人尋問の結果によれば、次の(1)ないし(4)の事実が認められ、(人証略)及び被告代表者本人尋問の結果(第二回)中右認定に反する部分はいずれも措信しない。

(1) 紅屋労組は、同五一年四月八日ころの執行委員会において、被告の組合弾圧に対抗するためとして、他の労働組合に対するいわゆる逆オルグを行うこと、その際に配布するチラシを作成することをそれぞれ決定し、右チラシの文案は書記長である原告安田に一任され、同原告は、右執行委員会の席上で報告されたことや話題となったことをもとに本件第一チラシを作成し、約一〇〇〇枚印刷した。

(2) 紅屋労組は、その後本件第一チラシを右逆オルグの際配布し、前記被告青森店々頭で配布したのは、その残りの約五〇〇枚であった。紅屋労組は、右青森店々頭でのチラシ配布には本件第二チラシを予定していたもので、本件第一チラシの配布は現場責任者の立場にあった原告安田の一存で決定したものであった。

(3) 原告坂田は、右青森店々頭での本件第一及び第二チラシの配布行為自体には一度も参加していないものの、前記本件第一チラシ作成を決定した執行委員会には執行委員長として出席していた。

(4) 原告川村及び同徳海は、右執行委員会開催当時、原告安田と共に紅屋労組の専従組合員であり、かつ執行委員の地位にあった。

右事実によれば、原告坂田は、紅屋労組の執行委員長として、本件第一チラシの作成に参画し、原告安田は、自らこれを作成し、かつ配布していることがそれぞれ認められ、原告川村及び同徳海も執行委員として右チラシ作成に参画していることが推認されるわけであるから、たとえ、当初の執行委員会の際には、本件第一チラシの配布対象を労働組合に限定していたとはいえ、不特定多数の者に配布する意図であったことからして、その配布については相応の責任があるものといわなければならない。

(四) そこで本件第一チラシの配布により被告の信用が毀損され、営業が妨害されたかについてみるに、(証拠略)によれば、本件第一チラシ配布後に次の(1)ないし(3)の事実があったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 被告の取引先である伊藤斉ほか二社の問屋から「あゝいうチラシを配布されては営業成績が落ちないか」という趣旨の電話での問合せがあり、取引銀行の一行からも同様の電話での問合せがあったこと。

(2) 取引先であったキャピタルという婦人洋品問屋との取引が一時停止となり、また家庭電器製品メーカーのシャープ電機との取引が停止となったこと。

(3) 同五一年四月一七日から一九日までの間に被告の販売した電子レンジが二件解約となり、また青森店の同年四月及び五月の各売上げがそれぞれ前年度に比し低下したこと。

しかしながら右(1)の事実は、一部の仕入先や取引銀行に限られ、しかも電話での問合せがあったにすぎないことからすると、これをもって被告の信用が格別毀損されたとまでは認めがたく、また右(2)及び(3)の事実についても、被告代表者本人尋問の結果中には本件第一チラシ配布の結果である旨の部分もあるが、これをにわかに措信することはできず、他に右(2)及び(3)の事実が本件第一チラシ配布の結果生じたことであることを認めるに足りる証拠はない。

また(人証略)によれば、本件第一及び第二チラシの配布期間中に、被告青森店へ、拡声器の音がうるさくて子供の昼寝ができないからやめてほしい旨の苦情の電話が同じ人から二回あったこと、路上にチラシが落ちているから片付けてもらいたい旨の電話があったことがそれぞれ認められるが、右事実が被告の信用毀損、業務妨害に結び付くとは考え難く、他に本件第一チラシの配布による被告の信用毀損、業務妨害があったことを認めるに足りる証拠はない。

(五) 以上の認定事実及び前述のように被告代表者が、原告安田、同坂田、同川村、同徳海らをその組合活動の故に嫌悪していたという事実を総合して判断するに、本件第一チラシは、被告と紅屋労組との間の深刻な対立のさなか、被告代表者の不当労働行為に対抗して作成、配布されたという経緯、被告青森店々頭での配布枚数は約五〇〇枚と比較的少ない枚数であること、右チラシ配布による具体的な信用毀損、業務妨害の事実も認められないことなどの諸事実に照らして、右原告らの本件第一チラシ配布についての紅屋労組執行委員会の一員としての責任の程度が、被告との雇用契約を継続することができない程に重大なものであるとは到底認められない。

4 原告安田、同坂田、同川村及び同徳海に対する違法ピケッティング等による信用毀損等を理由とする予備的解雇について

被告の右原告らに対する昭和五〇年五月一八日の違法ピケッティング等による被告の信用毀損等を理由とする同五八年三月八日付の本件第四三回口頭弁論期日における解雇の主張について、右原告らは、民事訴訟法一三九条一項により却下されるべきである旨申立てるので、この点について判断する。

被告代表者本人尋問の結果(第三回、前後記措信しない部分を除く)及びこれにより真正に成立したものと認められる(証拠略)によれば、被告は、右主張の紅屋労組のピケッティング等について、その翌日である同五〇年五月一九日に、紅屋労組に対し、同月一八日のピケッティングは違法であり、厳重に抗議する旨の抗議書を交付していることが認められ、右認定に反する証拠はない。また被告が、同年七月二日の本件第一事件の第一回口頭弁論期日において、原告川村及び同徳海の両名が紅屋労組の執行委員であることを認める旨の陳述をなしていることは本件記録上明らかであり、原告坂田及び被告代表者(第一回)各本人尋問の結果によれば、同年一月一二日の被告に対する組合結成の通知をなした際、紅屋労組は、その執行委員長が原告坂田であり、同じく書記長が原告安田であることも同時に通知したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、被告は、本件第一事件の第一回口頭弁論期日の時点において、既にその主張にかかる違法ピケッティング等の事実関係並びに右原告らが紅屋労組の幹部であることを了知していたのであるから、本件訴訟の当初から右違法ピケッティング等による信用毀損等を理由とする解雇の主張をなしえたことは優に認めることができる。しかるに、被告が、右解雇の主張をなしたのは、右ピケッティングの日から七年九か月以上も経過し、既に他の必要な証拠調も終え、弁論終結の段階に達した昭和五八年三月八日の第四三回口頭弁論期日においてであり、原告らはいずれも被告の右解雇の主張を争うものであることは弁論の全趣旨から認められ、被告の右解雇の主張について判断するには、なお相当の証拠調を必要とすることは明らかである。

以上の各事実並びに本件訴訟の経過に照らすと、被告の違法ピケッティング等による信用毀損等を理由とする解雇の主張は、重大な過失により時機に遅れたものとして、民事訴訟法一三九条一項により却下するのが相当である。

三  以上の認定判断したところによれば、被告代表者が、紅屋労組を敵対視し、その中心となって積極的な組合活動を行っていた同労組の幹部である原告安田、同坂田、同川村及び同徳海らを嫌悪していたことが認められるものであるところ、右原告ら各自に対する被告主張の解雇理由は一部主張事実が認められる部分があるが、それらは、いずれも、いまだ解雇しなければならないほどの重大なものでなく、したがって合理性が認められないことに帰するから、結局右原告らに対する各解雇はいずれも右原告らが労働組合員として正当な組合活動をしたことを決定的原因としてなされたものと認めるのが相当である。

よって、原告安田、同坂田、同川村及び同徳海に対する各解雇は、いずれも労働組合法七条一号に該当する不当労働行為として無効であり、右原告らは、いずれも被告の従業員としての地位を有するものであるところ、被告は解雇の正当性を主張してこれを争っているから、右原告らいずれにも右従業員の地位にあることの確認を求める利益がある。

四  賃金請求権について

1  先に認定したとおり、原告安田、同坂田、同川村及び同徳海は、いずれも被告の従業員としての地位を有しているのであるから、被告に対して各自賃金請求権を有するものというべきであり、また弁論の全趣旨から窺える被告の態度からすれば、被告が将来にわたっても右原告らの賃金請求権の存在を事実上争い続けるであろうことは優に予測しうるところであるから、右原告らは、それぞれ将来の賃金についても予め請求をなす必要が存するものと認められる。

2  原告川村の昭和五〇年一月三〇日付の解雇時における賃金月額が、基本給四万二五〇〇円、職務手当二万七五〇〇円の合計七万円であったこと、原告徳海の同日付の解雇時における賃金月額が、基本給四万一五〇〇円、職務手当一万七五〇〇円の合計五万九〇〇〇円であったこと、原告安田の第一次解雇前三か月間の平均賃金が月額一〇万三六六六円であったこと並びに被告の賃金支給日が毎月二八日であることはいずれも右各原告と被告との間において争いがなく、(証拠略)によれば原告坂田の同五一年五月一四日付解雇前三か月間の平均賃金が月額九万二〇六三円であったことが認められ、以上の事実及び弁論の全趣旨によれば、右原告らは、その後もそれぞれの解雇時の賃金月額を下回らない賃金の支払を受けることができたものと認めることができる。

3  以上によれば、被告は、原告川村に対してはその解雇の日の後である昭和五〇年二月一日から一か月金七万円の、原告徳海に対しては同じく同日から一か月金五万九〇〇〇円の、原告安田に対しては同じく同年五月一日から一か月金一〇万三六六六円の、原告坂田に対しては同じく同五一年六月一日から一か月金九万二〇六三円の、各割合による賃金をそれぞれ毎月二八日限り支払うべき義務があるものといわなければならない。

第二第三事件について

一  原告福士が、昭和四八年三月二二日に被告に就職し、同五一年三月当時被告青森店経理事務係として勤務していたこと、原告福士は、同五一年三月一四日、被告に対し、同月二〇日を以て退職する旨の退職願を一旦提出したが、同月一六日付の内容証明郵便で右退職願を撤回する旨の意思表示を被告に対してしたこと、被告が、同月二〇日を以て退職したと主張して、原告福士が被告の従業員の地位にあることを争っていることはいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、成立に争いのない(証拠略)によれば、被告の就業規則には退職願についての定めがあり、その一一条二項に「前項の規定により退職願を提出した者は会社の承認がある迄従前の業務に服さなければならない」旨の規定があることが認められる。一般に被用者のなす退職願は、使用者との間の雇用契約を合意解約したい旨の使用者に対する申込みにあたる意思表示であると解することができ、右申込みに対する使用者の承諾の意思表示がなされたときに右合意解約の効力は生ずるものと解され、右被告の就業規則一一条二項は、このことを明文化したものと認められる。そして、継続的契約という雇用契約の性質並びに被用者の退職の自由の確保という要請に照らして考えると、使用者の方は、合理的な理由もなくして被用者の退職の申込みに対する承諾を拒否しえないものの、被用者の方は、合意解約の効力が生ずるまでの間、使用者に不測の損害を与える等信義に反すると認められるような特段の事情のない限り、退職願即ち合意解約の申込みを自由に撤回して従前通りの雇用契約を存続させることができるものと解するのが相当である。

三  そこで、原告福士の退職願撤回までの間に被告の退職を承諾する旨の意思表示が存したか否かについて検討するに、被告は、同五一年三月一四日、右原告福士の退職願を即日承認した旨主張するが、被告代表者本人尋問の結果(第三回、前記措信しない部分を除く)によれば、被告代表者は当日不在であって、右原告福士の退職の件を後日青森店の猪股店長から報告を受けて知ったことが認められるものの、被告において、前記認定の就業規則一一条に定めるところの原告福士の退職願を承認するための組織上一定の手続を履践したり、原告福士に対し、退職願を承認する旨の通知をしたりした形跡は本件全証拠によってもこれを窺うことができない。もっとも被告は、青森店長である猪股繁の退職願受理によって、被告の退職承諾の意思表示がなされた旨主張するものと解されるが、例(ママ)え、店長の職にあるものであっても同人に被告を代表する権限はないのであるから、同人の意思のみによって被告の意思が形成されるものと解することはできず、右猪股店長の退職願受理は原告福士の退職願即ち合意解約の申込みの意思表示を単に受領したことを意味するにとどまるものと解するのが相当である。

右事実及び前記一の争いのない事実によれば、原告福士の退職願は被告の承諾の意思表示がなされる前に撤回されたものであると認められる。そして、原告福士の右撤回が信義に反すると認められる特段の事情の存在について何らの主張立証のない本件においては、右退職願の撤回は有効であるものというべきである。なお、成立に争いのない(証拠略)によれば、原告福士は、右退職願を提出した同年三月一四日に退職金八万三五〇〇円を受領していることが認められるのであるが、他方成立に争いのない(証拠略)によれば、原告福士は、前記認定の退職願の撤回をしたときに、被告に対し、刻退職金八万三五〇〇円も現金書留で郵送して返還し、右郵便は同月一九日被告に到達していることが認められるから、右退職金を一旦受領したことを以て、その後の退職願の撤回が信義に反するということもできない。

四  以上によれば、原告福士は、被告の従業員としての地位をなお有するものであるところ、被告において、これを争っているわけであるから、原告福士は、右従業員の地位にあることの確認を求める利益がある。

五  また原告福士は、被告の従業員として、被告に対し、賃金請求権を有するものというべきであるし、弁論の全趣旨から窺える被告の態度からすれば、被告が将来にわたっても原告福士の賃金請求権の存在を事実上争い続けるであろうことは優に予測しうるところであるから、原告福士は、将来の賃金についても予め請求をなす必要が存するものと解される。

原告福士の右退職願提出時の賃金月額が、基本給八万三五〇〇円、家族手当四〇〇〇円の合計八万七五〇〇円であったこと、被告の賃金支給日が毎月二八日であることはいずれも当事者間に争いがなく、右事実及び弁論の全趣旨によれば、原告福士は、その後も右賃金月額を下回らない賃金の支払を受けることができたものと認められる。

よって、被告は、原告福士に対し、その退職願提出の日の後である昭和五一年四月一日から毎月二八日限り一か月金八万七五〇〇円の割合により賃金を支払うべき義務があるものといわなければならない。

第三第五事件について

一  被告が、昭和五〇年五月七日、陸奥新報紙上に「お詫び」と題する広告を掲載したこと、右広告が紅屋労組のストライキにより多大な迷惑をかけたことをお客様各位にお詫びするという形式を取り、その文中に懲戒解雇者として原告川村、同徳海及び同安田の名前を掲記したことはいずれも当事者間に争いがなく、右広告掲載日前の昭和五〇年三月三一日、当裁判所において、原告川村及び同徳海を債権者、被告を債務者とする地位保全仮処分申請事件について、同原告らの懲戒解雇処分無効の主張を容れて、その申請を認容する内容の仮処分決定をしていること、陸奥新報が弘前市周辺において有力な日刊新聞紙の一つであることはいずれも当裁判所に顕著である。

また成立に争いのない(証拠略)によれば、右広告中には「当社の労働組合は(1)社員一律四万円の賃上げ(2)不正行為による懲戒解雇者(川村正博、徳海勝雄、安田博、湯瀬仁以上四名)の解雇撤回など過大なかつ又、不当な要求をかかげてストを決行致しました」旨の記載があることが認められる。

二  紅屋労組が同月四日に原告川村、同徳海及び同安田の解雇撤回並びに賃上げなどを要求してストライキを決行したことは、先に第一、二において認定したとおりであり、被告代表者本人尋問の結果(第三回、前後記措信しない部分を除く)によれば、被告は、右ストライキにより顧客の信用が失われたものと考え、これを取り戻そうとして陸奥新報紙上に前記広告を掲載したものであることが認められる。ところで、一般に会社が、その従業員のストライキにより、自己の信用が失われたと判断した場合、その信用回復を図るため何らかの適切な措置を講ずることは是認されるものというべきであるが、労働組合のストライキは原則として正当な組合活動なのであるから、その回復措置も真に必要な限度においてのみこれを講ずることが許されるものと解するのが相当である。

しかるに被告は、前認定のとおり、謝罪広告中に不正行為による懲戒解雇者として原告川村、同徳海及び同安田らの名前を公表したものであって、このように新聞広告の中で懲戒解雇の事実を公表することは、その読者をして、右原告らが極めて重大な不正行為をし、そのために懲戒解雇されたかのような印象を与え、右原告らの名誉並びに信用を著しく毀損するものであるから、被告の信用回復のための手段としての限度を超えて不法に右原告の名誉並びに信用を毀損したものといわなければならない。しかも本件においては、前記第一において認定判断したとおり、右原告らに対する懲戒解雇はいずれも不当労働行為として無効であると認められるものであり、右広告掲載当時でも前認定のとおり、原告川村及び同徳海については、既に当裁判所において懲戒解雇を無効としてその地位を保全する内容の仮処分決定がなされ、原告安田においても解雇撤回を要求してその効力を争っていたものであることを考えると、被告の前記広告掲載の違法性は明らかであるといえる。

三  以上の認定事実並びに原告川村(第二回)、同徳海(第二回)及び同安田(第二回)各本人尋問の結果によれば、右原告らが、前記広告掲載により精神的苦痛を被ったであろうことは優に認められ、被告は、右原告らの苦痛を慰謝すべき義務があるものといわなければならない。

そして、前記第一において認定判断したところの右原告らが懲戒解雇処分を受けるに至った経緯その他本件に顕われた諸事情を考慮すると、右原告らの苦痛は、原告安田については金三〇万円、同川村及び同徳海についてはそれぞれ金一〇万円を以て慰謝するのが相当である。なお被告に対する訴状送達の日の翌日が昭和五一年九月一一日であることは本件記録上明らかである。

四  次に被告の相殺の抗弁について判断するに、右認定の被告の慰謝料支払義務は被告の右原告らに対する不法行為によって生じたものであるところ、右原告らの慰謝料債権を受働債権とする相殺が民法五〇九条により許されないことは明らかであり、このことは、たとえ被告の自働債権もまた不法行為による損害賠償債権である場合でも同様であるものと解されるから、被告の相殺の主張はその余の点について判断するまでもなく、主張自体失当である。

五  よって、被告は、原告安田に対し、金三〇万円、同川村及び同徳海に対し、それぞれ金一〇万円の各慰謝料並びに右各原告に対し、それぞれ右各慰謝料に対する不法行為の後である昭和五一年九月一一日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわなければならない。

第四結論

以上の次第であるから、原告坂田及び同福士の本訴各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告安田、同川村及び同徳海の本訴各請求のうち、昭和五一年(ワ)第一五二号事件(第二事件)、同五〇年(ワ)第一〇一号事件(第一事件)の各請求はいずれも理由があるからこれを認容し、同五一年(ワ)第一八七号事件(第五事件)の損害賠償請求は、原告安田については金三〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五一年九月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告川村及び同徳海についてはそれぞれ金一〇万円及びこれに対する右同日から支払ずみまで同割合による遅延損害金の各支払を被告に対し求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告らの主文一項についての各仮執行宣言の申立てはいずれも相当でないからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川豪志 裁判官 西島幸夫 裁判官本田陽一は転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 前川豪志)

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